荒木飛呂彦の漫画術の話2

 今回は第四章「ストーリーの作り方」の感想とか。
 荒木先生がストーリー作りの基本としてあげているのは起承転結の展開。これは大抵の漫画なり小説なりの入門書でも指導してることですが、この後に続くプラスマイナスの法則は長い間週刊少年ジャンプという超激戦区で描いてきた人ならでは、と思わせるものがありました。プラスマイナスの法則といいつつも実際には主人公が負けるとかのマイナスの展開は駄目、困難はパワーアップしていくけど主人公は常に勝ち続けるといったプラスの展開にしましょう、というプラスプラスの法則とでもいうべき理論が展開されているのには正直ちょっと驚きました。
 幸せな奴が不幸になってどんどん落ちていくけど中盤から巻き返して最後には幸せになる話も、主人公が負けたり悩んだりしながら成長していくという話もダメだよ、というのはさすがに極端じゃないかと思ったけど、荒木先生がマイナスについて語り出すと、確かにそういうもんかな、と思う部分もあったり。
 主人公が負けたりイジケたりするところを読者が見たくないというのは、マニアが挫折や敗北も描くべきだとか言ってても、間違いなく真理だし、マイナスの後にプラスがあってもその結果ゼロになるのは意味がないダメパターンというのは創作をする上で肝に銘じなきゃいけない話だと思った。ジョジョのゲームで主人公が捕まってしまい、脱出するというストーリーを提案されたけど、これはプラスの展開に見えて状況がゼロに戻るだけの展開なので、別のストーリーを提案したとか、映画キックアスの続編を例にあげて「プラスマイナスゼロの展開では読者は感動しない」という論を唱えているのを見ると「プラスマイナスの法則」というよりは「プラスマイナスゼロの罠の法則」とでも言いたくなる。
 長編連載の「引き延ばし」と言われる展開も状況が大きなプラスにならずゼロ付近で停滞しているからこそ言われることだと思うし、プラスとマイナスのリスクを知っていれば、あえて王道に反した展開にも踏み込めると思う。荒木先生自身も第一部ラストを例にあげて主人公の死という大きなマイナスとジョースターの血統が受け継がれるというプラスのエンディングを採用した理由について解説していますが、プラスとマイナスを天秤にかけつつ常にプラスにする、というのが物語の王道、黄金の道なのでしょう。
 しかし絵と世界観では徹底的にリアリティを追求し、キャラクターに関しても細かい身上調査書を作成してディティールを追求する荒木先生もストーリーに関してだけはリアリティがあったとしてもそれは王道じゃないでしょ、と切り捨てているのは興味深い。「現実はこんなもん」みたいなストーリーはマニアはリアリティがあると言って賞賛するかもしれないけど、実際に普通の人が読みたいのはアゲアゲの「面白い」話だっていうのは再確認しておくべきだと思った。
 前回と今回で「荒木飛呂彦の漫画術」について駆け足で取り上げたけれど、取り上げなかった創作の実践編もジョジョリオン第一話と岸部露伴の短編「富豪村」を例に解説しててすごく面白いので創作に興味がある人はもちろん単に荒木先生ファンであっても必読の書でしょう、ということで大雑把に終了します。