荒木飛呂彦の漫画術の話

荒木飛呂彦の漫画術」を読みました。このブログは基本的にキン肉マンの話しかしないんだけど、この本の一章「導入の描き方」の最初の小見出しはなんと「ゆでたまご先生と自分の違い」、なんと一章のはじめにいきなりゆでたまご先生の名前が登場するんである。荒木飛呂彦先生が「漫画家になろう」とはっきり決意を固めたのはゆでたまご先生のデビューがきっかけだったのだ!
 というわけで「荒木飛呂彦の漫画術」の話に入りますが、最初に言っておくとこの本で荒木先生がゆで先生なりキン肉マンという作品について語っていることはごくわずかでしかありません。ですが、冒頭にゆで先生の名前が出てくるのは本当なので興味のある方は是非この本を手に取っていただきたい。まあキン肉マンが好きな人は大体ジョジョも好きだと思うけど(偏見)。
 デビューするためにはどんな風に漫画を描いたらいいのか、そもそも編集者は最初の1ページを見てつまらなかったらその先は見てくれない。そのためには導入部が大切なんだッ!ってことで導入部の描き方について指導してもらえるのが第一章、そしてデビューにこぎつけ荒木先生が体得した「最後まで読んでもらえる漫画」に必要な道標、王道を行く漫画の「基本四大構造」が第二章から七章まで語られていくのでした。
 ではその漫画の「基本四大構造」とは何なのか。それは「キャラクター、ストーリー、テーマ、世界観」、これに加えて第五章では漫画を統括する「絵」についての考え方とか技術についてのお話が挟みこまれています。
 どの章も面白いのですが、やはり荒木先生の漫画の読者としては先生の漫画に関するエピソードが登場する部分が印象に残るわけで、その点では第六章:漫画の「世界観」とは何か、が面白く読めたのでした。この章では漫画の背景ともいえる「世界観」について語られているのですが、荒木先生にとって世界観とは「リアリティ」のことなんだな、と感じられるエピソードがいくつも語られています。特に面白かったのがバオー来訪者の第一話でバオーが北陸を走る列車の電線の高圧電流で感電するシーンがあったけど、実は当時の路線はディーゼル車で電化されておらず、それは知っていたけど荒木先生はバオーをどうしても高圧電流で感電させたかったのであえて作り事の路線を出した。しかしその路線は電化されていないし、その路線は複線でなく単線だという誤りまで読者に指摘され先生は大いに反省した……、というお話。人によってはフィクションだしわかってやるんだから構わないんだよ、と開き直ってしまいそうな話であっても読者が話に入れなくなってしまったと悲しむところに荒木先生の誠実さが現れているし、この時の反省が後に語られる徹底した取材とリアリティへのこだわりに昇華されていくところもスゴイ。この後に語られる五部のローマ取材とか七部のアメリカ横断取材の話も面白いので是非この辺は実際に読んでいただきたい。
 この章以外にも第四章ストーリーの作り方で語られる「主人公は常にプラス」というストーリー論なんかもすごく面白いんですが、今日はこの辺で一旦終わります。