実ワンダフル

 怪談実話コンテスト傑作選2人影読了。良作、佳作もあるけど通読すると怪作の存在感が強すぎて何ともいえない気分になる一冊だった。収録作品は十四編といわゆる実話怪談本としてはかなり少なめで、一編の長さが怪談実話にしては長めの作品が多いのが特徴だけど、色々長々と書き込んでしまっている実話というのは怖かった癖によく細かいところまで覚えてるなと思うし、どこが話のキモなのかよくわからないまま終わってしまうと思う。また小説風の作品も目立ったけれど、小説っぽい文章というのは実話で使用されると嘘くささを倍増させるだけなんではないだろうか。新耳風、超怖風のベタな聞き書きスタイルのものは意図的に外してるんだろうけど、ああしたスタイルは「本当にあった話だと思わせる」ために有効だから流行っているし模倣されるわけで、小説風の文章がベタなスタイルに取って代われるかというとちょっとそうは思えない。
 以下、面白かった作品の簡単な感想。 
『カベトラ』
巻頭に載っているだけあってこれが一番面白かった。「体育館の壁に虎の形をしたシミがある」という「ふーん、そうなの」の一言で済ませてしまいそうな地味な怪談が用務員さんのホラめいた話によって面白くなっていくというお話。怪異のポイントが後半うまくずらされているのもテクニカルで良かった。
『こどもがえり』
これも後半の怪異のポイントのずらし方が巧みな作品。不気味な話から哀しい話への転化がやるせなくて良いです。
『トキ』
タイトルの意味が判明した時に思わず笑った。トキというよりは偽物のアイツなのでは?
『葬儀は続く…』
小粒な話が多い中で何十年にもわたり怪異と呪いが続くスケールが大きな怪談。だけど分量的にはコンパクトで記述もけっこうあっさりしている。それがいいのか悪いのかというと淡々とした部分がかえって不気味さを引き立たせている。

あとこの本で一番面白いところはやはり選考会レポートだと思うけど、このレポートを見ると飛び道具があっさり賞を獲ってしまうのも仕方ないか、という気にはなる。