ミゾーマガイアー

 袴田めら「最後の制服」は旧版持ってたけど本屋で五分くらい迷って結局新装版買っちゃったので感想を書くことにしました。
 百合好きの人以外はたぶんどんな漫画か知らないと思うので大雑把に内容を説明すると、女子校の寄宿舎で暮らす二組の百合カップルの恋愛の行方を描いたお話で主人公は一年生の天真爛漫な楓子と、楓子に恋する引っ込み思案な藍の二人、のはずだったのに後半は先輩カップルのミステリアスな紅子と、紅子に惹かれるボーイッシュな紡に主役の座を乗っ取られるのが特徴。
 主人公が事実上変わってしまう漫画は福本伸行の「天」をはじめそれほど珍しいわけじゃないけど、何故主役カップルの影が薄くなってしまったのか。その理由は藍と楓子のエピソードは二人(というか藍の一人相撲)で閉じているけど、紡と紅子の方は二人の恋路に絡んでくるキャラが混じってきて話が盛り上がるから。
 ただ恋愛に絡んでくるといっても紡に恋する下級生杏は紡のことを見守るだけでその想いが伝わることはないし、紅子を狙う上級生あさぎは積極的にアプローチするものの紅子にはまったく相手にされない、とその恋愛感情が一方通行なのが特徴的。
 あさぎの真剣な気持ちが紡を引っ張って想いが実らなくても紅子を愛する覚悟を決めさせ、一方ストーカー的に紡を見守る杏の視点が紡の良さや紅子との絆を発見していく、というサイクルがいい具合に作用していったことで後半紡&紅子の関係が盛り上がっていくのがこの作品の見どころ。
 一方、藍と楓子のほうは……。多くは語りませんが、第一話で藍が楓子を「わたしの王子様」と言っちゃうんだけれど、藍と楓子の最初の出会いでは実は藍が楓子をお姫様抱っこしていた、といういわばお互いが王子様に見えていた、というのは二人の関係の行方を暗示していたように思えなくもない。
 メインカップルと離れたところではあさぎに恋するキモオタ少女タマなんて子もいて、この子だけはあさぎの良いところを知ってるけど、やはりこの子の想いも一方通行というのが切ない部分であります。外見本当にキモオタだけどな。
 内容紹介が長くなったけど新装版の感想では上巻収録の杏のその後を描いた描き下ろし「私の夜」がすごく良かった。杏の見守るだけの恋の行方は旧版三巻に書き下ろされた「タルト」で爽やかにいじらしくまとめられたけど、伝えられなかった想いはやはりキレイごとではおさまらず杏ちゃんはうじうじ悩んで妄想の世界に逃げ込んでいたのですが……、というお話。
 杏なりのささやかな勇気の出し方とか杏にアドバイスした人物の意外性とか割と浮いてたその人物のエピソードとのつながりとか同じような悩みを持つ藍との対比とか色々と面白い部分は多いのだけれど旧版未読の人は下巻「タルト」を読むまでは読まないようにしたほうがいい。
 下巻収録の書き下ろし「縛って束ねて、印をつける」は紡と紅子のその後を描いたお話、エロい。なお下巻には藍と楓子のその後もちょっとだけ描いてあるけど、本当にちょっとだけなのでハブられた主人公の悲哀をより感じさせる結果となってしまった。