ユーレイ窓

三宅乱丈作品集 ユーレイ窓 (Fx COMICS)

世の中に幽霊なんていないんだよ。いるのは人を殺した人間とまだ殺してない人間だけなんだから。

 三宅乱丈があちこちで描いてた読み切り作品を集めたお蔵出し短編集。ホラーからギャグ漫画まで色々載っているけど掲載された作品群に不思議と寄せ集め感はなく、どこかホラーっぽい雰囲気で統一されている。
『47C6』
 正式なタイトルは『フォーティセブンチューズシックス』。ナンバーズ宝クジの抽選される数字を予想するうちに、クジ抽選日までの六日間、毎日クジに選ばれる一つの数字の『サイン』が身の回りに現れる、という妄想に憑りつかれた男の物語。日を追う毎に常軌を逸していく男の姿はサイコホラーとしても怖いけれど、男の周りに現れる顔面が肛門の人物の正体が一切説明されないのも怖い。
『ユーレイ窓』
 表題作。主人公の住むアパートの向かいにある病院の窓から顔を出している不気味な髪の長い女。女が現れる窓を主人公たちは『ユーレイ窓』と呼ぶようになったが、罰ゲームで女が現れる部屋を訪れた同僚の藤田はその窓から飛び出し命を落としてしまう。
怪談と思わせておいてミステリ的な展開をするお話だけど、ラストはきっちり怪談で終わる。最後の一枚絵は漫画ならではの効果的なオチ。文章で説明するより一枚の絵に絶対的な説得力があることもある。あと個人的にこういう怪異が運命を予見しているように思えたり、時空的にずれを生じて出現する、という話には妙に心惹かれる。
『ゴンベさん』
 実家に戻って故郷での暮らしを目論む夫と、それに対しためらいを覚える妻琴美。家族で夫の実家に帰省した琴美はそこで村人から親しまれる『ゴンベさん』に出会うが、彼女の目にゴンベさんは人間ではない異形の姿に見えた。そして平和なはずの田舎で子供の誘拐事件が起きてしまう。
事件のオチは見え易い作品だけど、それを通してラストで琴美の心境の変化を巧みに想像させる構成が秀逸。
『逃げろ』
 これは凄い。雨の日に恋人に会いにきた若い女性が、道端でゴルフクラブを振り回す不気味な男に出くわして……というホラー風のショートストーリーなんだけど、終盤の展開が斜め上に滑っている。これは是非現物を読んでいただきたい。
『謀反「ラーメン説」』
 本能寺の変はラーメンが原因だった!という珍説を唱えるギャグ漫画、ではあるんだけど、信長と光秀、互いに好意を持っていて両者とも善意で行動したはずなのに、気持ちは伝わらずに最悪の結果を招いてしまった……、というオチはホラーっぽい。
『ミント刑事』
 これは超凄い。三宅乱丈はストーリー漫画も凄いけど、ギャグ作品の中には狂気に満ちているというか、脳のどの部位を使ったらこんな発想が出てくるんだよ!というとんでもない作品が時々現れる。これは紛れもなくそのひとつ。どうやったらこんなくだらない話を思いつけるんだよ!あと、記録係のお姉さんが妙に可愛かった。巨乳だし。
『手をつなごう』
 この世に生まれなかった弟を持つ高校生田代。彼の弟は時々幽霊になって彼の元に現れる。友人の山崎にその事を話した田代は幼い頃、自分と手をつないでくれなかった母のことを思い出す。
妙に爽やかな雰囲気の作品。幽霊はなぜ生者の前に姿をあらわすのか、死者に対して生者はどう接するべきなのかを考えさせられるジェントルゴーストストーリーの佳作。多くを語らず一枚の絵に解釈を託したラストもいい。
『ちょっと怖い話』
 書き下ろしおまけ漫画。なんというか三宅さんの心理プロセスが凄く怖い。

 こうして見ると、どの作品にも『人の心は外側からではわからない』というテーマが多かれ少なかれ通底して流れていて、その辺りが短編集としての統一感につながっているのかな、という気もする。ホラーのようだけどギャグ、ギャグのようだけどどこかホラー、という作品が作品間をつないでいるという部分ももちろんあるとは思うけど。
メインはホラー、それプラスギャグという体裁の作品集ではあったけど、強烈な印象を残したのはギャグ作品「逃げろ」「ミント刑事」の二本。ホラー作品も完成度は高いし面白いんだけど、これらはどこかクールというか、冷静な視点で描いているんだろうな、という感じがあるのに対し、ギャグの方は明らかにどこかおかしい、異常な部分が突出しているのが凄い。三宅乱丈は今は『イムリ』に全力投球中というところだけど、いつかまた変でくだらないギャグ漫画も描いて欲しい。