読了

palospecial2009-03-30

 ようやく怪談文芸ハンドブック読了。だらだら読むよりは一気に読んだ方が良い本だったような気がする。
 第二部「怪談の歴史を知る」は三章構成ですが第一章はなんとギルガメッシュ叙事詩から始まる古代の文学に散見されるプリミティブな怪談の魅力を紹介。後半は中国の怪談文芸についての解説がメインで、日本の怪談と中国の怪談のつながりを再確認させられました。第二章は欧米の怪談の歴史、怪談の原点ゴシック小説の歴史に続き、十九世紀の代表的な各国の文豪五人の怪談との関わりを紹介、そして近世欧米怪談四天王+1の紹介へと続きますが、四天王+1に留まらず、その作家の魅力と繋がる作家もガンガン紹介されております。どういった作家が取り上げられているかは実際に本を読んでもらえばいいとして、この章では各作家とその作品の魅力を紹介するとともに怪談を書く上でのテクニックが惜しげもなく開陳されているのが素晴らしい。怪談作品を書こうとしている人はここで紹介されている作家の作品はどれも必読でしょう。この辺で紹介された作家は最近付け焼刃的にアンソロジーで色々読みましたが、第三章「日本における怪談文芸の系譜」で紹介されている日本の古典作品はあまりにも読んでないんで、現代語訳されたものを探して読んでいきたい。第三章は作家の紹介よりもわが国で怪談文芸作品がいかに親しまれてきた、という歴史の紹介がメインであるように感じました。
 こうしてすべて読み終えたわけですが、感想としては作中で「実話」が怪談文芸作品にいかに影響を与えてきたか、というエピソードが数多く紹介されていたことがかなり印象に残りました。実話と創作というのは対立するものではなく、むしろ互いにフィードバックするものだということが歴史の中で明らかになっていたといえるでしょう。
 また第一部のQ&Aでは【Q4】なぜ、今ホラーではなく怪談なのか?の部分で今の世にあえて怪談をプッシュする東雅夫の目的とかサイコホラーに関する分析が大変興味深く読めました。特にサイコホラーの分析を読んだ後は薄々感じていた「一番怖いのは人間の心」みたいなキャッチフレーズへの違和感がはっきりわかったような気がしましたよ。人間が一番怖いというよりも人間の怖さが一番わかりやすい、というだけでそれらが太古の邪神とか幽霊に比べて怖いかどうかは別問題、みたいな感じで。人間の心の闇を見つめず「サイコパス」だの「サイコさん」だのといった安易な怪物を生み出してしまうのはホラーとして本末転倒だとも思うし。
 あと過去の作家だけでなく現に生きてる作家もできる限り紹介されていますが、某スレで突っ込まれていた通り、安曇潤平さん、我妻俊樹さんといった現代の作家の名前が意外な場所で出てくるのでその辺も隠れキャラを探すように楽しめるのではないでしょうか。
 この本の欠点としては大量の作家や作品が紹介されているだけに索引がないのはちょっと不便だと思わなくもないですが、一晩でサクッと読める入門書という性質を考えると、あえて無くしたのかなという気がしなくもないです。この本で名前が出てる名作アンソロジーをなにかしら読めば読書の入り口は開けて他の本へとつながっていきますしね。ガイドブックという側面よりは一晩で怪談の基礎知識を身につける!というコピーどおりの効用を求めている人にオススメの一冊ではないでしょうか。