八百字小説『無人島』

 無人島に持っていくとしたら一体何を持っていく?放課後、友人達とそんな話をした。お気に入りのCD、絵を描くためのスケッチブック、好きな漫画、自分が弾ける楽器。色々な答が出たけれど、どれも退屈な時間を潰すための道具という点では一致している。一番多かった答えは『携帯電話』であたしもそう答えたけど、実際には無人島じゃあ電波が届かないから役に立たないだろう。
 メグだったら無人島に何を持っていくのだろうか。いつもすまし顔で面白いんだか退屈しているのかわからないメグ。メグは小説とか詩を書くのが好きだから、ワープロか、あるいは紙と鉛筆があればいいとでも言うだろうか。
 けれども実際にメグに会ってその質問をすると彼女は意外な答を返してきた。
「そうだなあ、まずは刃物かなあ、あと飲み水と暖を取る道具もいるよね。」
 真顔でそう答えるメグに私はいや、そうじゃなくて一番好きな文庫本とかさ、どうしても持っていきたい物だよ、と突っ込む。そんな事言っても無人島に放りだされたら、生きていくだけで精一杯で本読んだりする暇なんてないと思うよ、とやはり真顔でメグは言う。学校の友達と話した時は無人島で生き残ることを心配した子は一人もいなかった。本気で無人島で生活していくことを考えてしまうメグはやはりちょっと変わっている。
「でも、無人島で退屈しないために何かを持っていくっていうなら、あたしはコレを持っていくね。」
 そう言ってメグは私の腕をつかんだ。コレっていうのはあたしのこと?そう言うとメグは頷く。あんたと一緒ならどんな時でも退屈なんかしたことないから、無人島で二人きりで暮らしてもきっと大丈夫だと思う。メグは相変わらず真顔でそんなことを言うから、あたしは照れ臭くなって目をそらした。