押入れのちよ

 今年初めて読了した小説は萩原浩『押入れのちよ』。ホラー、怪談、ブラックユーモアといった感じの作品を集めたそれなりにバラエティに富んだ短編集でした。収録された作品の中で特に面白かった作品は「コール」「押入れのちよ」「老猫」「木下闇」。
「コール」「押入れのちよ」は泣かせ系のいい話だけど、それだけに留まらずどちらもミステリ的なちょっとした仕掛けがあるのがいい感じでした。「押入れのちよ」のほうはちよのすっとぼけたキャラクターも悲しい背景を払拭する明るさにつながっていて良かった。
「老猫」は怪談とかホラーのお手本みたいな作品。主人公とそれ以外の家族の老猫に対する認識が少しずつずれていく過程とか恐怖を盛り上げる段取りで読ませる作品でしたが、垣間見える老猫自体の妖しさも魅力的です。
「木下闇」は超自然的な存在による神隠しの話……と思いきや残酷な真相が明らかになることで超自然の要素が恐怖の対象ではなく、むしろ救いとか光明に感じられる作品。この短編集ではこれが一番印象に残りました。
 全体としてどれも面白かったので新年最初の読書としては当たりに出会って幸先いいのかな、という感じです。ホラーとか怪談というと悪趣味で不快なだけのものも多いけど、この短編集はどの作品も恐怖とか負の感情とかを描きながらもどこか軽さとかからっと明るい部分があるので嫌悪感とか引っ掛かりを感じなかったのも良かった。