800字怪談

『邪眼少女』

 私は邪眼少女になってしまったの。開口一番、安城先輩はそう言った。邪眼というと睨んだだけで人を殺せるという漫画によく出てくるアレですか、と尋ねると漫画に出てくるかどうかは知らないけど、私は憎んでいる相手を見つめると病気にしたり、あげくには殺せる力を身につけてしまったの。既に一人邪眼の犠牲者を出してしまったわ、と先輩は言う。誰ですか、と聞こうとして安城先輩と仲が悪い聖川先輩がずっと学校を休んでいることを思い出した。それに安城先輩は先程から決して私と目を合わせようとはしない。あさっての方向を向いて話をしている。不気味に感じたが、さすがに安城先輩の話を真に受ける気にはならなかった。
 放課後の人気のない教室に呼び出されて愛の告白でもされるのかと思ったら、こんな電波話を聞かされるなんて。その手の冗談を言う人ではないから、たぶん先輩は心の病にかかっているのだろう。かといって面と向かってそんな事を言うわけにはいかない。どうしたものかと考えていると、秋穂ちゃん信じてないのね、あたしすごくツラいのに、と安城先輩は悲しそうに笑った。どうして先輩は邪眼少女になってしまったんですか、と苦し紛れに質問する。別の邪眼少女の目をまともに見てしまったからよ、邪眼は伝染するものなの、なぜか先輩は楽しそうに笑った。

 そんなことがあってから先輩は学校に来なくなった。今日でもう一週間になる。授業を受けていても、つい上の空で安城先輩のことが気になってしまう。ご両親は彼女をちゃんと病院には連れていったのだろうか。快方に向かえばいいんだけれど。帰りに安城先輩の家に行ってみようかな、そんなことを思いながらふと窓の外を見ると、逆さまに落ちてくる安城先輩と目が合った。