俺のてのひらレビューファイナルバージョン

電王最終回、尺が足りないんじゃないかと不安だったけど、ラストバトルは盛り上がったし、涙あり笑いありの良い最終回でした。まあ消化しきれてない部分もあるけど、それは毎年のことだし。

そんなわけでてのひら怪談2レビューも今回で終わり。あちこちのてのひら作家さんがレビューしてたんで便乗したというのもあるけど、三冊も購入しちゃったんで元取るためにちょっと読み込んでみようという感じではじめました。けどやったらかなりめんどくさかったよ。

野棘かな「かまいたちはみた」

800字という狭い形式の中にとりとめない多様なイメージが流れるように、あくまでも軽く他愛なく展開する。このような作風で、気ままに風に乗ってさすらうかまいたちをモチーフに選んだのは慧眼だと思います。

青木美土里「押入れ」

お姉さんの境遇やキャラクター、語り手のお姉さんに対する想いが文章からさらっと伝わってくるのが素晴らしい。語り手がお姉さんのことをどう思っていたのか直接的には書いていないけど、お姉さんを軽く見てはいたけど、好きで放っておけなかったことが文章の端々から伝わる。少年の日の淡い想いを怪異に託した傑作。

圓眞美「からくり」

押入れにいるものの正体は示されていませんが一応怪談なんでしょうか。単に特殊プレイを客に見せ付けたいだけの変態夫婦の話ととれなくもない。「からくり」というタイトルは作品の構造とも上手く合致していて秀逸。けど夫のイニシャルが「M」なのは安直すぎるのでは。

皿洗一「豆腐屋の女房」

豆腐で女房を作るというアイディアは面白いし、そんなことが出来ることの説明が「特殊なにがりを使っているから」の一言で済まされる大雑把さも好き。だけど、せっかくの豆腐人間という奇想があんまり膨らまずに豆腐だから三日で腐る位で終わってしまうのが残念。女房というシチュエーションだと下ネタが多くなりそうだけど。

黒猫銀次「空気女」

こちらは空気女という奇想をあますことなく膨らませています。こういうアイディアありきの作品はそのワンアイディアからどれだけ面白いエピソードを引き出せるかが勝負でしょう。「空気」というキーワードを八百字の中でこれだけ料理しているのは素晴らしい。ラストの展開も気が利いていて面白いです。

沙木とも子「移り香」

夢が現実に侵食し、夢で起こったことが現実の事件に発展するというアイディアはありがちだけど、ラストの夫の反応が気持悪い。あからさまに犯人という状況なのに動じてないし、夢の中の出来事と主張で精神鑑定狙いってどんだけサイコパスなのか。女が薄笑いを浮かべていた理由も夫の反応を考えると謎。

六條靖子「姑のハンドバック」

実はこれ怪談じゃないような気がします。怪異である「バッグの中身が消える」という部分は智香の悪意ある思い込みと解釈できますし。バッグを捨てる役が智香ではなく、智香の話を鵜呑みにした語り手だというのも嫌な感じですね。実は語り手も離婚前の智香のような状況にあるのではないか、そんな風に感じられます。

石居椎「本日のみ限定品」

怪異が目に見えない形であらわれるのが面白かったです。怪異の描写というのはどうしても視覚情報に偏りがちですが、微かな匂いや料理の味で怪異を表現したのが巧い。一日だけの死者のささやかな来訪を爽やかに描いています。姿を見せず料理を振舞って去っていく母の奥ゆかしさも前半で提示されたキャラクター像と齟齬なくはまっているのがいいですね。あとなぜ七月二十六日が幽霊の日なのかは『幽霊の日』でググるとすぐわかるよ。

あか「トキウドン」

ナンセンスに近い作風です。色々とツッコミどころはあるけれど、素でやってるのか意図的なものなのかよくわからない。むじなとか時そばのパロディのようだけど、主人公は弥次さん喜多さん。なんというか突っ込んだほうが負けといった感じの怪作です。

乃木ばにら「黒い不吉なもの」

みえるひと』の体験談で終りそうな話を妻のひとことでひっくり返して含みのある話になって……はいないかな。何か知ってたならそもそも店に来ないんじゃないかとかトラブルのもとになりかねない嫁を連れてこないんじゃないかとか思ってしまう。

湯菜岸時也「怪鳥」

ちょっとタイトルは飛躍しすぎかな。チンピラ風の男達は怪異めいた存在だったのか?という部分が話のキモだと思うけど、それなら語り手には車内で粘って欲しかった。これだけの情報だとチンピラ=怪異にはちょっと結びつかない。むしろ「すぐ終ります」という台詞や金品の被害がないという事実からチンピラの目的はホモレイプだったのでは、という気がしなくもない。

峯野嵐「ハンター」

話の流れからいくと語り手は襲われていそうな気がするんだけど、怪ババアは人肉は喰わないんだろうか。こんな悪食なババアがいたらそりゃその駅で降りるなって言われるだろうけど、このババアかなりの有名人なんだろうか。白いギターを獲得したことがあるのかも。

大河原ちさと「魅惑の芳香」

がんばれ!犬!人間に負けるな!嗅覚と視覚以外の感覚が麻痺した、というくだりのあとで視覚的にインパクトのある犬ブン投げ描写があるのが妙に印象的。前半のなぞの生物の描写は凝っているけど、この作品読んだ人はみんな犬投げたことしか頭に残らないんじゃないか。

松音戸子「アイス墓地」

アイディアは面白かったけど、妙に話がまだるっこしかった。コレは視点人物に問題があるんじゃないだろうか。アイス墓地に無関係な大人の語り手よりはアイス墓地を探検した子供とかその親あたりを語り手に添えたほうが話がスムーズに進むと思う。大の大人がそんなもの見ても話題にしないと思うし。歯医者に来た子供たちが墓地を荒らしたかどうかわからないというのもまだるっこしい。そんなとこぼかしても仕方ないだろう。

斜斤「スコヴィル幻想」

馬面の小人というイメージが絵的にインパクトがあります。味覚障害を治しにきたナイスガイかと思いきや、実のところトドメさしに来たんじゃないか。すっとぼけた味わいのある面白い話でした。あとスコヴィルというのは辛さをあらわす単位だとか。

一双「ギジ」

話は意外な方向に転がっていって面白いんだけど、前半股間の話にこだわった理由がわからずに困惑した。荒山徹の柳生大戦争みたいに芳一が耳の代わりにチンポを取られたというわけじゃないみたいだし生えたての陰毛の話も後半関係ない。作者が陰毛フェチなのか。

杜地都「分割払い」

これはスタンド能力だな。鮎原君は矢で射られている。地味な能力だが、生きていく上ではかなり役に立ちそうだ。それはそうと何の発表会だったのかが気にかかりますね。日本舞踊の発表会ではなさそうだし。母親のプロフィールも何のために挟まれていたのかよくわからない。

不狼児「肝だめし」

線香人間キモい。時を超えると人間は性別も年齢も変わってしまうなら語り手はバアさんになるのでは。まあ裸のババアよりは裸の幼女のほうが好きな人のほうが多いし、絵として画太郎の漫画みたいでアレだから幼女のほうがいいのかな。

飛雄「よそゆき」

おばさんがプールの底で踊っているというシュールな状況なんでお笑い系の話かと思ったら一気に怖い話に。裏返しに服を着て両手をひらひらさせて踊るおばさんという間抜けなルックスなのに唐突に母と妹を糾弾するのが怖い。その内容が「お前らはよそいきなんだよ」という具体的でない曖昧で電波がかったものなのが怖い。おばさんが何者なのか、母親とどんな関係なのか一切明かされず、妹と母の仲が険悪になり、唐突に母が自殺する。そんな理不尽な結果だけが示されるのが怖い。多くのことを投げっぱなしにして読者の解釈に任せたことが成功している作品だと思います。

ヒモロギヒロシ「死霊の盆踊り

怪異に対峙している当人たちは真剣なはずなのに、傍目にはバカにしか見えない。この作品ではそこが極端にディフォルメされ馬鹿話としてクローズアップされているけど、赤の他人から見ると怪談めいた体験というのはそんなものなのかもしれない。単なる馬鹿話に終らず怪談の本質をしっかりとらえた作品だと思います。