俺のてのひらレビューパート5

電王のCDコンプリートボックスを買うかどうか考え中。

電王最終回までにはケリをつけたいてのひらレビューの続き

黒田広一郎「鳥雲」

火事というのは自分の家とかで起こるのは嫌だけど、自分と関係ないところで起こっていたら燃え盛る炎にはついつい魅入られてしまうもの。そんな火事に対する心理を怪異にした凄みのある作品でした。怪異に託した放火犯の心情の告白と、犯罪への欲望が自分にもあると気づかされた語り手の自己嫌悪の物語ととらえていいのでしょうか。この後で火事が起こらなくなったというのも嫌な感じです。

椎名春介「帰り道」

怪しいものが自分にしか見えていないというのは怖い。自分以外の人が怪しいものを見ていて、自分の見た怪しいものが本当にあったものと気づくのも怖い。でも人に見えているものが自分にだけ見えないというのはもっと怖い。群集が異常なのか語り手に何か原因があるのかわからないところも不気味でいい。怪談というよりは奇談やホラーに近い味わいですが、怖い話が少ないてのひら2の中でかなり不安をそそる怖い話になっています。

貫井輝「問題教師」

タイトルは問題教師だけど本当に問題なのは生徒の方ですね。つかフジセン霊を祓ってくれたりしてけっこうイイ先生なんじゃね?もっともなんで生徒を樹海に連れてったかは謎なんだけど。頭悪そうな女子高生(たぶん)の語り口が特徴的ですが、ナチュラルでイカれてるのか樹海行ったせいで狂ってるのかが謎なところが面白いです。

仲町六絵「せがきさん」

これは問題ありなのは生徒のほうですね。こっくりさんをモチーフにした怪談だとこっくりさんをやった生徒が勧善懲悪的にひどい目に遭うのがお約束ですが、この作品ではせがきさんをやめさせようとした先生だけがひどい目にあって終るのが理不尽で定型から外れています。先生にとりついたモノがせがきさんをやった生徒にしか見えないのは不気味ですが、先生の心配をせず平然と「先生は今もご存命である」と結ぶ語り手にはそれ以上の不気味さと吐き気を催す邪悪さを感じます。

亀ヶ岡重明「アキバ」

問題教師を描いた東京伝説系の話かと思ったら、後半ひっくり返されて驚きました。アキバを知覚しているのが主人公だけではなかったという部分が解釈の幅を広げていて面白い。島に出来る特殊学級に入れるぞという脅しも小学生が本当に考えそうな噂っぽくていいですね。

加上鈴子「壁の手」

ところどころ表現の大げささが気になりました。なんとなく一昔前の投稿怪談っぽいテイストがします。見える人の独白とかそんな感じ。最後の語り手の怪異に対する解釈はちょっと説明的で決め付けすぎではないでしょうか。なんというかストレスとか思い込みが生んだ怪異という印象が強い。

武田忠士「写生」

校舎を描いた生徒全員が黒い大きなものを描いていて、しかもそのことを覚えていない、というくだりは不気味で面白いのですが、本当によくわからないものを見たというだけのシンプルな話で終っているのは残念。最後の生徒の一言も怪異はほんとうにあったというアリバイ作りにしかなってないし。先生が生徒が写生してる校舎を見てないってことはないだろうから、その辺の視点は入れて欲しかった。

野暮粋平「酒場にて」

予知絵というモチーフが怪異とは言い切れないところが、話の解釈の幅を広げていて巧い。恐ろしい女性=娘の母親と示唆しながらもあくまでも娘の死因は病死。偏執的に折りたたまれた紙片は異常な心理状態をあらわしているように見える。娘は母親の虐待を告発したのか、それとも予知絵はあくまでもただの絵にすぎず、そこに意味を見出してしまったために離婚という新たな不幸を招いてしまったのか、含みの多い話です。

日野光里「角打ちでのこと」

角打ちの説明に字数を取られながらも怪談本編もそつなくまとまっており、酒を怪異解決のためのアイテムにしたことで角打ちという舞台の意味もそれなりに活きて来る、手堅い技術を感じさせる怪談でした。角打ちが舞台でなくても成立する話ではありますが。

呪淋陀「マムシ

コーヒー瓶の中で起こっていることも怖いけど、サイコっぽいマムシキラーのじいちゃんも怖い。瓶の中でパワーアップしたスーパーマムシマムシキラーのリターンマッチのゆくえが気になります。

吉野あや「父、悩む」

もの凄い奇想が炸裂した怪作。電車に関する描写がやたら細かいのが著者のその筋の人っぽさを感じさせる。その描写の細かさが奇想をふくらませていて面白いんだけど。最後のすごいオチは盲点をついていて驚かされた。怪作度奇想度ではてのひら2中これがナンバーワンなんじゃないだろうか。

有坂十緒子「なめり、なめり、」

語り手の性別が気になります。友人を強調してるからたぶん男性だと思うけど、だとするとちょっとホモ臭いですね。あてつけになめくじ飲んで自殺されたりしたらその友人もなめくじも本気で嫌いになりそうなもんだけど、なめくじが可愛く思えるようになったというのが異様。友人に対する哀れみと優越感からなめくじも友人も怖い存在ではなくなったのか、マゾッ気とホモっ気から友人となめくじに歪んだ愛情を抱く様になったのか。

麻見和臣「乗り物ギライ」

よくできたショートショートだとは思いますが怪談としてはどうかと思います。このネタだと何故乗り物が嫌いなのかとか乗り物に乗ろうとするとどうなるのかといった発想をふくらませたほうが面白くなったような気が。

峯岸可弥「橋を渡る」

鼻削ぎと獅子マンの間にはやおいめいた因縁があったような気がする。鼻削ぎは誘い受けで獅子マンにめちゃめちゃにされたい願望があったのだろう。だからこそ鼻削ぎはほぼ無抵抗で襲われながら微笑んでいたのだと思う。そんな因縁がありそうな二人のバトルを描きながら観客はそんなもん知ったこちゃねえ、とばかりに突き放しているところが作品を上手く相対化していると思う。

室津圭「僕の妹」

怪談としてはすごくベタなんだけど、妹に対して素直に気持ちを伝えられないお兄ちゃんの心情がダイレクトに伝わってくるのでなんかグッときます。直球ストレートで勝負してる作品でその事が全部プラスに働いたような印象があります。

勝山海百合「古井戸」

前に載った「僕の妹」を読んだあとだと巧いけどあざとい、という印象を持ってしまいますね。あざといといっても不快というわけではないですがとにかくあざとい。

保志成晴「千住が原からの眺め」

美しいイメージと死の気配が隣り合わせになった鮮烈な作品。美しいが故に怖い、というモチーフはてのひら2では案外盲点だったような気が。作品で描かれる緑野のイメージは読んでてくらくらするし、健次の死に顔も読み手の不安を誘う。ビジュアルに優れた良作です。

貝原「筒穴」

起承転結のある幻想小説の「起」だけが描かれているような作品でした。怪談らしくない怪談が売り物のてのひらではありますが、正直なところコレは怪談といっていいものなのか。怪異めいたものは出現しないし、怪異の気配を感じさせる部分もほぼ皆無ですし。単に穴を探検する話としか思えませんでした。

登木夏実「穴」

後半の展開がちょっとご都合主義な気がします。穴の存在も不思議なことがあるわけでなく、ヘビ女の廃品回収所だったような感じになってしまってるように思えるし。

宇藤蛍子「隙間」

部屋の真ん中に出来たという隙間の位置がどこにあるか、かなりわかりにくいです。ヴァニラ・アイスのスタンドみたいに空間にぽっかり割れ目が出来たのか床に穴が開いたような感じなのか。風が前髪をちらつかせた、という描写からは高い位置に隙間がありそうだけど、男の頭の上にタンスを置いたというからには足元にあるっぽいし。それよりも隙間から腕が出てきてるのに右手くらいなら無害とか言っちゃう語り手のアレっぷりとか、どこの番組で見たか知らんけど頭が通れば全身通る、と信じ込む隙間怪人とか作品を支配する電波スメルが強烈です。