俺のてのひらレビューパート2ダッシュ

前回書くのを忘れましたが、このブログを書いてる人の名前は座蛾万太郎です。

それではてのひらレビュー2回目。

久遠平太郎「二〇〇七年度問題」

時事ネタに絡めたよくできたショートショート的な一品。怪異の正体に関するやりとりが面白かったです。まあ、実害がないなら放置が一番……というか嘱託でまた雇うべきなのでは。オチは想定の範囲内ではあるものの段取りが巧いのでガッカリ感なしに愉しませていただきました。

我妻俊樹「客」

読んでいるうちに足元がぐらつくような気分にさせられる素晴らしい怪談でした。訪れた女は会話もできる生者と変らないモノから紙のように不気味な存在へと揺らぎ、異界を断ち割るような電話とともに唐突に消える。母親はすべてわかっているけれど、女の消失とともに何もわからないかのように振舞う。女の正体は何なのか、母親が知っている事情はどんなものか一切語られず、ただ不穏な空気だけが流れ、読者は不安にかられながら母親によって「片付けられてしまった」物語に思いを馳せるしかない。文章自体も無駄なものを削ぎ落とし片付けてしまったような端正さなのが凄い。

小林修「気配」

気味の悪い話ではあるんですが、読み手に対するフックというかひっかかるものがあまりないかも。「それ」に関する情報が曖昧すぎるので、読者が怪異に対して想像を膨らます余地があんまりないんですね。古い知人だと思ったけど、懐かしさは感じないでとても恐ろしく嫌な気分になった、というくだりは凄くグッときたんですが、その後に怪異に対して色々想像を膨らますための示唆がなかったのが残念です。

武田若千「女」

つかみどころのない怪異を淡々と描いていて面白いです。幽霊とか妖怪なんてものは粘着気質でしつこくつきまとうもののはずなのに、この『女』のやる気と持久力のなさは意外性があって可笑しい。すごく変でインパクトのある作品でした。

島村ゆに「伝手」

ああ、霊能者ものか苦手だなあ、と思いながら読んでいたら、後半で反転する世界観に驚かされました。こういう前半できっちりネタの下地を作っておいて後半でドカンとひっくり返して驚かせてくれる作品は多いけど、こういう世界観なり価値観まできれいにひっくり返してくれる作品には脱帽するしかない。

米川京「蜘蛛の糸

有名な芥川作品のパロディですね。地獄の罪人らしき人々は必死だけれど、お釈迦様ならぬ主人公は目の前で起こっていることに対してただ困惑し、呆然とするしかない。そのギャップが面白い。罪人を無事釣り上げていたらどうなったかは気になるところです。

小出まゆみ「夜泣きの岩」

子捨てというモチーフ、タイトルの夜泣きという言葉から泣かせ系の話かと思って読んでいたら後半のぶっとんだ展開と悪意に満ちたラスト一行にやられました。これは素晴らしい。感情を込めない淡々とした語り口も怖さを引き立てていると思います。

朱雀門出「カミソリを踏む」

タイトルからして痛そうだし、本編も物凄く痛そうな話でした。ラストの一文はもうちょっとなんとかならないかなと思ったけど、こういうラストにしかならない話ではあります。

春乃蒼「迦陵頻伽─極楽鳥になった禿」

悪くないとは思うけど、ちょっとデコレーション過多すぎやしませんか、という印象が。はっきりいって苦手な作品でした。元ネタがあるみたいですが読んでないので本歌取りとしての魅力も評価できず。こんなレビューですいません。

池田和尋「鬼女の啼く夜」

鬼女とシスコン兄貴がシンクロするまでにもうちょっと工夫が欲しかったかも。個人的にはこういう復讐ネタというのはあまりにもあっさり上手くいくと拍子抜けな感があるので。正直八百字でまとめるにはキツいプロットだったのでは?とちょっと思った。

平平之信「生まれ変わったら」

気の利いたショートショートでブラックな味わいの快作。八百字という制限の中でラストに至るまでの段取りを巧みにさりげなく済ませているのが巧い。主人公の女性のキャラクター造形も、この話にはこういうキャラしかない、という奴を用意しているのが見事です。

加楽幽明「禍犬様」

二体の姿も行動も対照的な怪異が印象的な作品でした。面白かったけど犬頭の人間の描写がちょっと気になります。『胴体は犬ではなく人のものでした』とあるけど、首から下が人間のものだったということだと思うので、どんな体格でどんな服を着ていたといった描写は必要なのでは。登場時に犬マンの体の正体をぼかしたいなら状況を工夫すべきでしょう。まあ犬の頭には婆さんの体がくっついてるんだとは思うけど全裸だったりしたらかなりキモイな。

新熊昇「連子窓」

夢と現が交じり合ったような不思議な情景が展開される、怪しい話が怪談ならば、これぞ怪談というべき作品。夢を見ている語り手が家の外から自分の家を覗く後姿の女に化粧している自分の姿を見ているという構図のややこしさがなんかいいです。ラストの連子窓から見える猫の描写を見てなんとなくD坂の殺人事件を思い出しました。

西村風池「猫爺」

窓から見える影絵めいたネコ耳女軍団の描写が面白いです。猫と影絵は相性いいですね。どこかユーモラスささえ感じさせる猫女たちの嬌態が映る障子の背後に実際にはどんな光景が広がっているのか。家の中にいるであろう猫爺と猫たちにどんなことが起こったのか。最後の二行で幻想から一気に怪談へと物語が転換するのが見事です

江崎来人「お花さん」

ビーケーワン怪談大賞に掲載された作品にオチの部分が加筆されて話がわかりやすくなりました。加筆によって説明的にはなったものの、怪異の気配が濃厚になり怪談としてはぐんと良くなっていると思います。お花さんの乳房に鶏の脚を押し当てるシーンは何度読んでも異様な迫力があります。

沢井良太「首」

この作品は正直なんだかなあと思いました。雰囲気はいい感じではあるけど、そんなに皆うさぎ肉嫌がるもんかね?ってところでまず引っかかったし、うさぎも祟るんなら手を下した農家のおっさんに祟るべきなんじゃないの?って部分でも引っかかった。オチもちょっとありがちすぎると思います。

亀井はるの「ネパールの宿」

舞台がネパールというのは変り種ですが、フォーマット的には実話怪談によくある霊能者話という印象です。序盤に『空いてる安宿がない』というエクスキューズがあるとはいえ、これだけ怖い体験をして宿から逃げ出そうとしないのは凄い。とはいえ淡々とした語り口、あえて怪異については多くを語らない抑えがちな筆致といい怪談として上質だと思います。

長谷部弘明「山鳴る里」

雰囲気は良かったけど、語り手の怪異に対する視点なり想いといったものが見えてこないので物語というよりは伝説紹介の記事みたいな印象を受けました。いっそ語り手の存在をなくして伝説の部分だけをディティールアップして作品にしたほうが良かったのでは。

山本ゆうじ「蚊帳の外」

文章が凝っていてすごく読みにくかったです。何度か読み直したのですが、長い前置きをしたあげくに蚊帳の外にオバケが出ただけの話としか読めなかった。土佐の伝説なり民俗学の知識があったりするとなにかしら違った一面が見えてくるんでしょうか。

由田匣「仮通夜」

このシチュエーションだとばあちゃんは行列の人たちの中にいないとまずいのでは。のんきに孫と遊んでないで人を待たせるなと言いたい。悪趣味なババアのキャラクターありきの怪談ですね。